畑で野菜を育てようと思ったときに、まず最初にすることは何ですか?
畑の土を耕す?
私も、農業を学ぶ前は、畑で農作物を栽培するために、畑の土をトラクターや鍬で耕してからがスタートだと思っていました。
ですが、世界を見渡してみると、どうも畑の土を耕す農業は、時代遅れになりつつあるのです。
なぜなら、
- 有機物が流出しやすくなる
- 微生物が少なくなる
- 畑の土が硬くなる
といった理由で畑の土を耕すと土が痩せてしまうから。
では、どうして土を耕すと畑の土が痩せてしまうのでしょうか。
また、どうして日本の農業では土を耕し続けているのでしょうか。
なぜ耕すと土が痩せるのか 畑の土を耕す意味とメリットを考える
最近になって、農業大国と知られているアメリカでは、麦やトウモロコシの栽培に不耕起栽培を取り入れるようになってきました。
オーガニックな農業が活発なヨーロッパでも、畑の土を耕さない不耕起栽培による農業があちこちで見られます。
こういった農業先進国がどうして畑の土を耕さなくなったのか。
その理由は、畑の土を耕すと土が痩せてしまうようになったからなのです。
畑の土を耕すことで有機物が流出しやすくなる
畑の土を耕すことでおこる一番のデメリットが、有機物が流出しやすくなること。
有機物とは、畑の土の中に詰まっている植物の栄養の材料になる成分のこと。
土を耕すことによって、土の中に空気が入りますよね。
そうなることで、微生物の活動が活発になります。
微生物の活動が活発になると、土の中の有機物が急速に分解され、一時的に土の中が栄養豊富な状態になります。
一見よさそうなことなのですが、すぐに栄養は雨で流されたり、空気中に逃げてしまったりして、流れ出てしまいます。
こうなると、植物が栄養を吸収する間もなく、有機物が外に流れ出てしまうことになるのです。
逆に土を耕さずにいると、有機物がジワジワと分解されるので、植物が無理なく栄養を得られます。
一時的な栄養豊富の状態は、植物の育ち過ぎを誘発します。
一見すると野菜の初期育成が良くなり、畑を耕したかいがあったなと感じてしまうのですが、肥料過多で育ちすぎると病気や害虫の被害にあいやすくなり、逆に良くないのです。
人間が栄養を一度にたくさんとりすぎて、肥満や糖尿病になっているような状態のようなものでしょうか。
土を耕すことによって、植物の健康を損なうことにつながるのです。
土を耕してみると、独特な土の香りがしますよね。
あの現象は、土の中に入っていた有機物が空気に触れて混ざり、空気中に逃げているサインなのかもしれません。
最近は、あの匂いを嗅ぐと、もったいないなぁと思ってしまうようになりました。
有機物だけではありません。
畑の土そのものの流出が問題視されているのです。
通常、土を耕さないと、地表面に雑草や草の根などが、ぎっしりと詰まっていますよね。
反対に、土を耕すと、土がむき出しの状態になります。
こうなることで、雨や風によって、畑の土がどこかへ流されたり飛ばされたりしやすくなります。
畑を耕すことで、知らないうちに、畑の土が減ってしまう。
畑の土が無くなってしまっては、野菜を育てるどころの騒ぎではすみません。
土を耕すと、文字通り、土が痩せていくのです。
畑の土を耕すことで微生物が少なくなる
畑の土を耕すことで、ミミズや線虫、藻類に糸状菌に放線菌にバクテリアと言った、微生物たちが住みかを追われ、少なくなってしまいます。
水田や畑をトラクターで耕してみると、耕した後に、大量のミミズの亡骸が…なんていうことも少なくありません。
こうした微生物たちは、土の中で有機物を分解して植物の肥料成分を作ったり、互いに競合したり捕食したりで病害虫の発生を抑えてくれる働きを持っています。
しかし、土を耕すことで、これらの微生物たちが減少してしまうと、土の栄養を作る力が弱まったり、病害虫の発生を抑えきれなくなって、畑に様々な問題が発生してしまうことになります。
また、微生物たちの活動によって、土が柔らかくなり団粒構造を保ってくれることもあり、微生物が減ると土が硬く乾燥したものになりやすいという問題も生まれます。
畑の土を耕すことで土が硬くなる
土を耕すことで、土が硬くなります。
畑の土を耕した直後は、空気を含ませることが出来るので、やわらかくなっているような気になります。
しかしそれは、トラクターの刃や鍬の届く、せいぜい地下2~30センチまでのことでしょう。
その下は硬盤層と呼ばれるとても硬くなった土の層で阻まれ、スコップどころじゃ歯が立たず、ユンボと呼ばれるショベルカーなどの力を借りねば掘ることが出来ない地層が広がっています。
土を耕さずにいると、植物の根によって、自然と地下深くまで耕すことが出来ます。
根穴構造(こんけつこうぞう)と呼ばれる、植物の根があった部分が微生物によって分解され、根の形状に沿った空洞が無数に広がる構造が出来上がり、土が地下深くまで柔らかな状態を作ってくれるのです。
地面が柔らかいことで、植物の根が良く育ち、生育が良くなります。
また、地面に隙間があることで、透水性や排水性などが向上し、気候変動にも強くなるというメリットがあります。
しかし土を耕すことで、植物が根を地中深くまで伸ばす前に引き抜かれたり、せっかく育った根が引きちぎられ、土を耕すことなく無くなってしまうのです。
先に述べた、有機物や微生物の減少とも重なり、土を耕すことで土が硬くなってしまうのです。
土を耕すメリット
土を耕さないことで様々なメリットがあります。
ではなぜ、日本では畑の土を耕す農業が主流なのでしょうか。
土を耕すことに意味やメリットは無いのでしょうか?
土を耕すメリットとしてあげられるのは、
- 雑草の一時的な抑制
- 土の形を整える
- 肥料を土と混ぜる
- 土に空気を入れる
といった利点があります。
雑草の抑制が大変な不耕起栽培
土を耕すメリットは、雑草のコントロールが容易になる、ということ。
畑に生えている雑草ごと土を耕すことで、雑草の生長を一時的にリセットして、狙った作物の生長を促すのです。
現在の日本の農業では、企業化や大規模化が進んでおり、ひとつの農家に対して田畑がとても大きくなり対応するのが困難。
雑草との付き合い方が大きな課題となっています。
この問題を少しでも効率よく解決するために、畑を耕し続けるのです。
不耕起栽培が主流になると困る人たち
畑を耕すことで、有機物が流出して栄養不足になり、微生物が減って病害虫リスクが増え、土が硬くなることで土を耕す必要が出てくる。
こうした状況になることで、得をする人たちが存在します。
- 肥料屋さん
- 農薬屋さん
- 耕す道具屋さん
です。
この人たちは、雑草との共存を叶え、不耕起栽培が主流になってしまうと困るのです。
この人たちが富と権力を握っている間、なかなか状況が変わらないのは、当然と言えるのではないでしょうか。
土を耕さないことで得られるメリットは大きいものの、雑草の壁が行く手を阻みます。
海外では、遺伝子組み換え作物を利用して、除草剤に負けない品種と農薬を使ってこれらの問題に対応しているケースも見られます。
不耕起栽培だからと言って、環境に優しい農業とは限らないのです。
日本では、雑草が育ちやすい高温多湿という気候と、農家の大規模化が不耕起栽培の障壁となっています。
また、降雨が多く、水資源にも事欠かないことから、地球環境の悪化に鈍感であるという指摘もあります。
耕さない農業の広がりは、まだまだ芽を吹いたばかりなのです。