昔の人は、月を見上げて、農業を営んでいました。
なぜなら、月の満ち欠けによって、植物の成長が手に取るように分かったからです。
満月になると、植物の樹液が枝や葉などの上部に集まり、
新月になると、植物の樹液が根に集まります。
この現象は、太陽と月を地球から見た時に、新月は太陽と月とが同じ位置にあるため引力が合成されて強くなり水分が上に引き上げられ、満月は太陽と月とが反対方向にあるため引力が打ち消しあい水分が下にとどまりやすくなる、という原理によって起こります。
そのため、新月から満月になる時期は栄養成長が旺盛になり、満月から新月になる時期は生殖成長が旺盛になりやすいという性質が見られます。
こうした植物特性を、昔の人は経験からえられた生活の知恵として、農業に利用していたのです。
昔の人は月を見上げて農業を営んでいた
現代社会のように、時計やカレンダーなどの、正確な時間を刻む道具がない時代。
人々は、月や太陽、夜空に浮かぶ星の位置を頼りに、時間を刻んでいました。
明治5年までの日本では太陰太陽暦と呼ばれる、月の満ち欠けの周期である約29.5日を一月として考える旧暦が採用されていました。
太陰太陽暦(旧暦)では、新月の日を月の初めの1日として考え、朔(さく)とも呼ばれていました。
そこからだんだん月が大きくなっていく時期を上弦の月と呼び、満月は15日目となります。
満月のあと、だんだんと月が小さくなっていく時期を下弦の月と呼び、新月になる朔の日を迎えることで翌月となります。
この太陰太陽暦は、日本の気候風土や農業と非常に相性が良く、現在でも旧暦を記したカレンダーが販売されているほど愛され続けています。
種をまくなら満月、苗を植えるなら新月
月の満ち欠けと農業が、具体的にどういった利用のされ方をしてきたのかを紹介したいと思います。
冒頭に説明したように、月の位置によって植物の樹液の流れが変化するため、
樹液が上から下に下がる新月には栄養成長に適した、
樹液が下から上に上がる満月には生殖成長に適した農作業をすることが推奨されています。
栄養成長とは、おもに自分自身を維持するために行われる成長で、葉を増やしたり根を充実させる営みのことを言います。
生殖成長とは、おもに自分の種族を維持するために行われる成長で、花を咲かせたり実をつける営みのことを言います。
これに従って農作業をするなら、
樹液が下から上に移動していく、満月から数日前より満月にかけてが、種まきの適期とされています。
植物の樹液が下から上に移動するので、種から根がまず先に成長してから芽が伸びるため、より健康に成長することが出来ます。
逆に上から下に移動する新月やその数日前に植えてしまうと、根よりも芽が先に伸びてしまい、徒長してしまい成長に支障をきたすとされています。
これとは逆に、大根やジャガイモなどの根菜類は、新月に植え付けを行うと良いとされています。
これらの植物は、根の成長が何より大事なので、樹液の移動が上から下に移動する新月の数日前から新月にかけてが適期と言われています。
苗の移植や定植は、新月の数日前から新月にかけてが適期とされています。
植物の樹液が上から下に移動するので、根の部分に栄養がいきわたるため、根の活着が促進されるからだとされています。
また、挿し木や接ぎ木なども活着が促されるため、新月のころに行うと良いと言われています。
収穫も月で適期が決まる
種まきや苗の定植の時期が月の位置で決まるように、作物の収穫も月の位置で品質が変わってきます。
満月の時期は樹液が上に移動しており、新月の時期は樹液が下に移動しています。
ということは、それにともなって水分量も変化しているという事。
なので、トマトやナスビは、満月の頃に収穫するのが、一番瑞々しくて美味しいとされています。
逆に、お米やカボチャなどの、収穫してから保存が必要になったり熟成させてから食べる実は、新月の頃に収穫したほうが、水分量が抑えられていて保存性が効きやすくなるため適期とされています。
根菜類の場合では、地上部の収穫とは逆の発想が必要になります。
瑞々しく美味しい大根が欲しいなら樹液が下にある新月に、乾燥させて熟成させるサツマイモなら樹液が上に逃げる満月期の収穫が適期と考えることが出来ます。
月の動きで病害虫のリスクが変動する
植物を食害する害虫は、新月と満月の頃に産卵をする傾向があります。
それは、満月の頃に植物の生殖成長が、新月の頃に栄養成長がピークを迎えるから。
青虫だって、新鮮で柔らかな新芽を食べたいに決まっています、なので美味しい食事にありつけるよう、植物の生長に合わせて産卵するようになっていると考えられています。
なので、害虫の防除は新月と満月の数日前から、害虫の駆除は新月と満月から数日後に行うと、効率良く作業できます。
病気は、栄養成長に傾く、新月と、新月から満月になる上弦の月シーズンに特に注意してください。
この頃は、茎や葉や根の成長が旺盛な時期。
野菜の病気って、そのほとんどが葉っぱや根っこを傷めるものですよね。
なので、栄養成長期は、病気になりやすいのです。
早期発見と早期対処を心がけてみてください。
半月の頃の植物はとってもデリケート
新月と満月のちょうど中間期、半月の頃の植物はとてもデリケートな状態。
この時期は、植物の栄養成長がピークになる新月と、生殖成長がピークになる満月のちょうど中間地点で、体の調子を整える大切な時期です。
水分や養分の吸収もあまりできないので、水やりや肥料なども可能なかぎり控えて、安静にしてあげるのが大事。
芽かきや葉かき、剪定や植え替えなどは、この時期を避けて行うようにしてください。
日本以外にも、農耕を営んでいた海外では、同じように天体の動きを利用した農法が実践されていたようです。
ドイツでは1970年ごろから、ルドルフ・シュタイナーによって提唱されたバイオダイナミック農法という有機農法があり、いまでもワインのブドウを育てるために活用されていたり、広く普及しています。
現代日本の農業では、月の動きを道しるべに農作業を進めることはとても難しく、実践できる内容と難しい内容とに分かれてしまいます。
ですが、天体の動きを利用した農法だなんて、ロマンあふれる響きじゃないですか。
先人たちの知識を、取り入れられるところは取り入れ、少しでも農業が実り豊かなものになれば、それはとても素敵なことだと思います。