個人農家が自然環境に配慮して農業を営んでいても、残念なことに影響はとても小さいものです。
ですが、地域が一丸となって環境に配慮した持続可能な農業に取り組むことで、個人農家の力だけでは到底たどり着けない、大きな力を発揮することが出来ます。
今回は、地域単位で自然に優しい農業を営んでいる事例を、ご紹介したいと思います。
- 山梨県の4パーミルイニシアチブ
- 石川県羽咋市のはくい式自然栽培
- 有機JAS認証事業者数が日本一の町
地球にやさしい農業への取り組みは、着実に広がりつつあります。
環境に配慮した持続可能な農業に取り組んでいる地域について
国は、有機農業の推進に関する法律を平成18年に打ち出しました。
しかし、まだまだ地域のJaや市役所単位の現場に近い場所では、環境に配慮した農業への取り組みは、活発とはいいがたいものがあります。
それもそのはず、自然に配慮する農業は、野菜を大量に安定して生産することが、大変難しいから。
食の安全とは、食べて安全というだけでなく、安定して生産することが可能かという供給の安全も守らなくてはならないのです。
なので、供給できるかの食の安全を考えた時に、自然に配慮した農業というのは、安易に推進することが出来ないのです。
ですが、地域一丸となって取り組むことで、個人農家では対応が難しい供給の安定をカバーした取り組みを行っている地域があるのです。
山梨県の4パーミルイニシアチブ事業について
山梨県は、多くのく果樹が栽培されており、ぶどうやももの生産量が多いことで知られています。
そんな果樹の剪定枝を使って、大気中の二酸化炭素削減に取り組んでいるのが、4(フォー)パーミルイニシアチブという事業です。
この取り組みが始まるまで、果樹につきものの剪定枝はごみとして処分されていました。
4パーミルイニシアチブ事業では、果樹を剪定するときに出る剪定枝を、無煙炭化器によって炭に加工して、土壌改良剤として利用する事業が取り組まれています。
こうすることで、剪定枝を処分するときに発生していた二酸化炭素が、炭に加工することで二酸化炭素を炭に固定可能になり、炭を土にまくことで二酸化炭素を土中に閉じ込めることができるのです。
その結果、空気中にある温暖効果ガスである二酸化炭素の量を削減する、地球環境に優しい農業として生まれ変わることができたのです。
また、草生栽培という地表面に生える雑草を取り除かない農法も取り入れています。
雑草の光合成によって、二酸化炭素を吸収し、温室効果ガスを抑える効果も併せて期待できます。
山梨県は4パーミルイニシアチブ事業によって、二酸化炭素排出量を抑える、自然に優しい農業に取り組んでいるのです。
地球にやさしい果樹農家に興味がある方は、山梨県を訪れると良いと思います。
石川県羽咋市のはくい式自然栽培について
石川県能登地方にある羽咋市では、自然栽培が盛んです。
青森県のりんご農家の木村秋則氏が発祥の自然栽培は、本や映画にもなっており、阿部サダヲさんと菅野美穂さんが出演する「奇跡のリンゴ」という作品が、amazonでも鑑賞が可能です。
現在も、のと里山農業塾という講座がJA主催で開かれており、JAはくいのホームページから申し込むことが可能になっています。
また、石川県羽咋市のホームページでも、農業体験や新規就農者支援について詳しく書かれているので、興味のある方はチェックしてみてください。
自然栽培とは、農薬、化学肥料、有機肥料、除草剤を使用せず、土壌の微生物の力を借りて作物を栽培する農法です。
現在は、自然栽培による野菜栽培ではなく、ブランド化されたお米の栽培がメインになっている様子。
ブランド米は需要が安定しており、販路も獲得できていて、農産物による利益の確保が安定しやすいからとの理由です。
野菜や果樹を育てる場合は、生産性に安定感がなく、販路の確保が新規就農者では難しいため推奨していません。
実践するなら慣行農法と半々で取り組むと良いのではという感じでした。
自然栽培や米農家に興味のある方は、石川県羽咋市を検討してみてはいかがでしょうか。
有機JAS認証事業者数が日本一の山都町について
有機JAS認証事業者数が日本一多いのは、どこの市町村区かご存じですか?
正解は、熊本県上益城郡山都町です。
熊本県の東、宮崎県に隣接する場所にある山都町は、九州のちょうど真ん中にあるということで、「九州のへそ」を商標登録しているという、ユニークな町です。
JAに有機農業研究会があり、現場に近い所でも有機農業に対して意欲的。
よくある、国は有機農業を推進していても、現場や周りの農家は有機農業に否定的なことによって、摩擦や衝突が起こるリスクが低いのが魅力的です。
有機農業への新規就農に対しての支援もされていて、研修を受けた後も自分で営農する独立自営だけではなく、いまある農家にサラリーマンとして入り雇用就農という形を選択することも可能で、ライフスタイルに合わせた柔軟な選択ができます。
先輩有機農家さんに囲まれて、農業研修だけでなく、移住前/移住先/移住後のサポートも万全な熊本県山都町は、有機農家になりたいあなたを応援してくれます。
熊本県山都町の農業について詳しくはこちらのページで解説されているので、是非一度ご覧ください。
ちなみに、2位と3位にはそれぞれ、鹿児島県の霧島市と姶良市がランクインしています。
ありのファームもある志布志市の取り組み
最後に、ありのファームがある志布志市での環境への取り組みもご紹介したいと思います。
志布志市では、国からピーマンの指定産地に認定されていることもあり、ピーマン農家が多いです。
志布志のピーマン栽培では、農薬だけに頼らない農法として、益虫を利用したIPMの取り組みが行われています。
IPMとは、Integrated Pest Managementの略で、日本語では総合的病害虫管理と呼ばれます。人や自然環境に配慮して、経済性を考慮しつつ、農薬などの使用を控えるために実施される、有害生物制御に関係する技術全般のことを言います。
要するに、益虫の力を借りて、農薬の使用を減らそうという取り組みです。
また、志布志市ではお茶の生産も盛んです。
平成28年に有志によって設立された志布志有機茶研究会という研究会では、環境と調和した美味しい有機茶の生産に取り組んでおり、研修や技術交換会などを行っているんだそう。
その他、個人農家単位では有機農家がいくつか営農されているようですが、地域一丸となって取り組んでいるという感じでは、あまりないような印象です。
以上、環境に配慮した持続可能な農業に取り組んでいる地域についてご紹介してきました。
新規就農したいと思ったら
- 果樹なら山梨県
- お米なら石川県羽咋市
- 有機農業なら熊本県山都町
- ピーマンなら鹿児島県志布志市
がおススメですよ。
このなかでも、山梨県の4パーミルイニシアチブが、農業分野の脱炭素としてかなり画期的な取り組みだと感じています。
この取り組みは2015年のパリ協定でフランス政府が提唱し、日本の自治体で初めて山梨県が参加を認められたという経緯があり、世界的に見ても最先端の農業を実践している県として、山梨県を見る目が変わりました。
フォーパーミルとは、4‰と表記し、0.4%という意味を持ちます。
空気中に存在する二酸化炭素の0.4%を削減できれば、人類が一年間に発生させてしまう二酸化炭素を相殺することが出来る、という考え方から「4パーミルイニシアチブ」という名称がつけられています。
植物が光合成によって吸収した二酸化炭素を、植物に固定したまま炭に加工し、炭を土中に混ぜ込むことで、二酸化炭素を土の中に貯蔵する。
質量保存の法則によって、地球上の二酸化炭素量は不変。
そのため、土中の二酸化炭素が増えれば増えるほど、空気中の二酸化炭素が減るという理屈です。
剪定枝で炭を作り土にまくことで、空気中の温室効果ガスである二酸化炭素が減れば、地球温暖化を抑制することが可能になる。これこそが山梨県が一丸となって取り組んでいる4パーミルイニシアチブという事業なのです。
2021年には、日本を含む623の国と国際機関が参加しており、4パーミルイニシアチブは地球全体で広がる環境保全事業となっています。