テレビを見ていたら、大学で研究されているLED光源と液体肥料で育つ、レタスが紹介されていました。
未来の野菜、科学技術を利用した植物工場での野菜の生産。
完全屋内で栽培する野菜は、完全無農薬と生産品質と量の安定性がウリで、宇宙や潜水艦など自然環境の全くない場所での食物生産に、その真価を発揮するということでした。
この未来の野菜LEDレタスについて、個人農家目線で感じた率直な感想をまとめてみました。
結論から申し上げますと、
LEDレタスをはじめとする植物工場は食の安全を守る農業ではなく、
科学的あるいは経済的な発展のためにある工業である。
LEDレタス 植物工場で育つ未来の野菜について
未来の野菜LEDレタスの特集と、レタスの美味しい食べ方について、といった番組構成でした。
LEDレタスをはじめとする完全屋内で光と水と肥料だけで野菜を育てる、植物工場の意義として、食料自給率の話が序盤にありました。
農家数の減少と、作付面積の縮小により、食料自給率が減ったので~
といった説明があったのですが、植物工場によって自国で野菜がたくさん生産されるようになっても、日本の食料自給率はほとんど上昇しないというのが正直な感想です。
植物工場の意義を無理矢理高めようとした、ミスリードを誘う表現かなと思ってしまいます。
食料自給率についての簡単な解説は下記の記事に任せるとして、食の欧米化が自給率低下の大きな要因なので、LED野菜がどれだけ普及しようが影響は少ないと考えています。
植物工場が自然環境にどう配慮するのかが課題
LEDレタスなどの完全屋内で野菜を栽培する植物工場の主なメリットとして
- 無菌状態なので無農薬栽培が可能
- 24時間LEDを充てることで早く生長する
- LEDの色の種類によってレタスの特性をコントロールできる
- 天候や病害虫などの自然環境に左右されない
- 水・肥料で育つため野菜特有の苦みやえぐみが少ない
デメリットとしては
- 栽培コストがかかる
- レタス以外の栽培技術がない
といったことがあげられます。
LEDレタスの栽培に関して、その有用性は確かに計り知れない可能性を秘めています。
特に、宇宙開発や、潜水艦内部での活動など、自然環境が特別厳しい環境下で、野菜が安定的に生産できるという利点は大いに評価できますし、研究する価値があると思います。
しかし、研究開発や野菜栽培に費やすコストについて、無視することはできません。
LEDライトを使用することで、従来の蛍光灯などの電源を使うよりも、ここ数年で大きくコストカットが進んできました。
それでもなお、露地栽培によって作られたレタスと比較すると、とても多くのエネルギーを消費している現状は変わりありません。
また、LEDレタスの栽培には、液体の化学肥料を使用しています。
化学肥料の価格高騰と、肥料原料の枯渇などが地球規模で問題視されている現状を鑑みても、先行きはあまり明るいとは言い難いものになっています。
栽培にかかる電力などのエネルギー量は、これからの科学技術の進歩によって、いくらでも改善の余地があります。
しかし、肥料価格の高騰と、肥料原材料の枯渇に対しての課題は、日本だけでは解決することが出来ません。
なぜなら、化学肥料のほとんどを、海外からの輸入に頼っているからです。
さらに、化学肥料によって引き起こされている環境問題も、無視できないレベルへと進んでいます。
それでも国は、植物工場の開発に税金を使って多くの補助金を出し、技術開発を後押ししています。
自然環境に配慮した、持続可能な開発計画を推進するSDGsとは、正反対の道を進んでいる気がしてなりません。
レタス以外の栽培技術がない
レタス以外の栽培技術がないというところも、LED野菜の欠点として挙げられます。
玉川大学では、今後イチゴの栽培技術の確立に力を入れるとのこと。
しかし、とてつもなく困難な道のりになると思われます。
研究にかかるコストもそうですけど、野菜をLEDで育てるために必要な電気の量がかなり大変なことになると予想されます。
なぜなら、レタスがもっとも少ない光量で収穫できる種類の野菜だから。
野菜には品種によって成長に必要な光の量がおおよそ決まっています。
- 光合成で生命を維持するために必要とされる最低減の光の量として、光補償点。
- これ以上浴びても成長には寄与しない光の量として、光飽和点。
こう呼ばれる、光合成によって体を維持するための光の量がおおよそ決まっていて、冬野菜よりも夏野菜のほうが多く、また葉物野菜よりも実物野菜のほうが多くなっています。
冬野菜と夏野菜の違いは、そもそも太陽の光の量が夏と冬で全然違っているので、自分に合わない季節では光の量が多すぎたり少なすぎたりして成長できないだけで、人間がかってに冬野菜や夏野菜と呼んでいるだけなのです。
なぜ実物野菜のほうが多いかというと、葉を作るだけでよい葉物野菜よりも、葉を茂らせ花を咲かせ実を作るために余分に栄養が必要になるからです。
つまり、冬野菜で葉物野菜のレタスは、必要とされる光の量がとても少ないという事。
逆に、夏野菜で実を食べるトマトなどは、必要とされる光の量がとんでもなく多いということになります。
LEDレタスの時点で、育てるために必要なコストがとても多く、国からの補助金を頼りに赤字経営している植物工場も多くあります。
それなのに、さらに光が必要で、電力量が多量に要求される他の野菜を育てることは、現時点での科学技術では、かなり困難なことが予想されます。
それにくわえて、野菜を育てるためには、植物が成長するのに適した温度を保たねばなりません。
消費電力量が従来の光源よりも少ないLEDであっても、発熱はします。
LEDの発熱によって上がり過ぎた室温を下げるためにも、大量の空調設備が必要になることでしょう。
さらに、光合成には二酸化炭素が必要です。
外国では天然ガスを燃やして確保しているようですが、天然ガスの価格は年々上昇しており、近年では採掘による環境破壊が問題になってきています。
これらの栽培にかかる電気などを含めたエネルギー総量は、いったいどれほど膨れあがるのでしょうか。
農家の私では、想像もできません。
農業先進国として知られているオランダでは、人工光源のみで野菜を育てるのではなく、太陽光の少ない時だけLEDを利用する手法で消費電力を抑えており、完全に人工光源のみでの野菜栽培には否定的というとらえ方もできます。
LEDレタスの栽培は農業ではなく工業 宇宙への布石
私は、LEDレタスをはじめとする植物工場は食の安全を守る農業というより、科学的あるいは経済的な発展のための工業であると考えています。
現在様々な国が宇宙開発として、人工衛星や人を乗せたロケットを打ち上げて、科学技術の発展を推し進めています。
そう遠くない未来、人間が宇宙に飛び立って、月や火星に降り立ち、植物工場を立ち上げ、移住する時代が来るのでしょうか。
そのために、いまいる地球の豊かな自然を使いつぶし、山や森や農地だった場所に植物工場を建設するようになっているのでしょうか。
植物工場のために投じられる多くの税金。
無駄が少なく、地球も汚さない、自然の太陽光と土と水を使った有機農業の推進のために使った方が、人も自然も豊かに暮らせるのではないでしょうか。
そうすれば、自然環境にも優しい無農薬で美味しいオーガニックレタスでサンドイッチを作って、家族みんなでピクニックに出かけることができますもの。
無菌の植物工場は、メリットばかりじゃないかもしれないというお話